おおきく振りかぶって 第14話おおきく振りかぶって第14話 挑め! 「見事な雲だぜ」 「降水確率80%だもんよ。試合中振り出したらどうなんの?」 「よっぽどじゃなきゃ続けちゃうな」 「そっか…。二時間もちゃいいけど…」 「1番、センター・泉」 「はい!!」 「2番、セカンド・栄口」 「はい!!」 「3番、ショート・巣山」 「はい!!」 「4番、サード・田島」 「はい!!」 「5番、ライト・花井。6番、ファースト・沖」 「はい!!」 「7番、レフト・水谷」 「はい!!」 「8番、ピッチャー・三橋」 「はい!!」 「9番、キャッチャー・阿部」 「はい!!」 「声出し!!練習の成果、全部出すぞ!!」「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」 「今にも降りそうだな」 「あぁ、雨…」 「三橋、手貸せ」 阿部の手の平に手を合わせる三橋。 「お、冷たくねえな」 「昨日、いっぱい寝たよ。朝もパッと起きた」 「へぇ」 「それでご飯食べて、あぁ、さっきバナナ食べたよ。お弁当もある。、忘れてない。忘れ物はなくて…あとえっと…あれ?えっと…」 「何の話?」 「えっと…」 「今日は調子がいいって話だろ?」 「うん」 「ヒヒ…」 「成程」 「準備万端ね!!」 「はい!!」 「さぁ、始めましょう」 「西浦高校の生徒さん!!そろそろ中入るよ!!固まって入って!!一緒に入んないとただになんないからね!!」 「私達もただなの?」 「え、親は券買うの?」 「お宅は何組?」 「うち、1組」 「名簿が欲しいよね」 「あ、三橋のおばちゃん!!」 「え!?」 ついに西浦高校野球部にとって、初めての公式戦が始まった。 対戦相手は去年の優勝校、強豪・桐青高校。 西浦高校が守備練習しているのを見ている和己ら桐青高校は西浦が監督が女性で、しかも選手は一年生だけなので桐青にとって万に一つも負けるイメージがわかない相手だった。 《ひ、人がいっぱい…。ハマちゃんの横断幕がある。この人達、西浦の応援に来たんだ。皆、誰かを応援に来たんだ。俺が打たれたら、皆ガッカリする。中学の時と同じだ。始めのうちは応援の人がスタンドにいっぱいいた。だんだん減って中学最後の試合には一人も来なかった。俺が1番だったから…》 《援団にビビってんのか?声かけるか?でも、試合始まっちゃえば周りは関係なくなるかも。下手に声かけるとビビらせそうだぜ》 一方、三橋は観客席に続々と集まる西浦の応援客を前に、中学時代の苦い思い出が甦り、自分が打たれたら皆がっかりするだろうと緊張してしまう。 そんな三橋に外野席スタンドから声をかけてきたのはハマちゃんと三橋母だった。 「三橋!!」 「廉、ここ~!!廉!!」 「三橋!!」 「お、お母さん!?」 《おお、援団に寄ってった。浜田とおばさん、ナイス》 「二人で何やってんの?」 「なぁなぁ、おばさん、ヒデーんだぜ。俺のこと全然分かんなかったのな」 「そりゃしょうがないよ。あなた、あの頃、私より小さかったんだよ」 「おばさんは全然変わんねえよな」 三橋が寄っていくと、ハマちゃんと三橋母は昔話を始める。 そして、三橋母は三橋の背番号がちゃんとついているかを心配し、背中を向けさせます。 「う~ん、何か曲がってる気がするな…」 「何すか?」 「背番号がね…真っ直ぐ縫うの結構難しいのよ」 「あぁ」 「何度も付け直したんだけどさ」 「背番号?」 「大会ごとで返すんだっていうからミシンは使えないしさ」 「何なら、俺つけますよ?」 「えぇ!?縫い物できるの!?」 「ハ、ハマちゃんは横断幕作ったんだよ!!鉢巻と襷と腕章もだよ!!」 三橋がハマちゃんが縫い物得意な事をキラキラした目で話すと、三橋母もキラキラした目で、ハマちゃんを見ます。 「でもね、背番号は私がつけるんだ」 「あ、分かるっすよ。つけたいの」 「分かる?」 「息子が頑張って取ってきた1番だもんね」 「そ、そうなの。お母さんつけてって、1番持ってきた時は何かの間違いだと思ったんだけどさ。監督さんに聞いても間違いないじゃないらしいし、この子、練習着にも「1」って書いてもらってるのよ」 「あぁ、あのマジックの。あれ、スゴイっすよね」 「初め、苛められてんのかと思っちゃったけどさ。まぁ、嬉しいもんよ。この気持ちは親の特権だね。だから自分でつけるんだ」 両チームでグラウンドの整備をするように放送が流れたので三橋はチームの元に戻る。 《間違いじゃないんだよ!!この1番は中学の時とは違う、ちゃんともらった1番なんだ。頑張ろう。ホントの1番で初めての公式戦だ》 《敵ながら惚れ惚れする肩だわ~。桐青のキャプテン、キャッチャーの河合和己君。彼は名実共に桐青の扇の要ね。桐青の伝統で、1、2年生は背番号が大きいけど、河合君以外もレギュラーはスタメンを揃えてきた。本気で相手しもらって光栄だけど、皆、顔怖いよ。その本気、吉と出るか?凶と出るか?勝負!!》 桐青の守備練習で、和己の肩に惚れ惚れするモモカン。 いよいよ試合が開始され、夏大緒戦が始まります。 一回表西浦の攻撃、1番泉。 泉の心理描写での桐青のエース準太はスリークオーター気味で打たせて取るタイプ。 篠岡のデータから、終始130km/h台のストレートを投げる投手と分析していた。 《130はマシンで散々打ってきたけど、人が投げると全然違うんだよな》 泉はバントの構えを見せる。 緊張していたのは西浦だけではなかった。 準太はいきなりボール球で相手を警戒していた。 キャッチャーの和己が考えすぎないようにしようと2球目に指示したボールとは違い、ボール球を投げてしまう準太。 《あれ?考えすぎてんのは俺だけじゃなさそうだ》 「OK、OK、ナイスコース!!」 それを見た、泉もモモカンもチャンスが来たと察知する。 《河合君は投手を立てるリードをする。ノーツーからなら投手なら誰でもストライクが欲しい》 《高瀬がカウントを稼ぎたい時に投げるのはスライダー!!》 「泉の打った球はセンター前ヒットとなる。 西浦の応援団のトランペットが鳴り響き、大太鼓も叩かれますがショボイ。 「うちのクラス、浜田に結構連れて来られてるんだ」 「うちのクラスも来てるぜ。感触はどうよ?」 「スライダーは追える。マシンの軌道に近い」 2番の栄口はきっちりバントを決め、1アウトランナー2塁となる。 3番の巣山もモモカンの指示はバントだった。 《巣山君にアウトカウント使ってもランナーを進めてもらう》 《バント。次は田島だから、2アウトにしてもランナーを3塁に進めておきたいんだ。ここは確実に決めなくちゃ》 《またバントか。もう盗塁は怖くないし、3番は2番より小技が下手なのが入る。ここは打ち上げてもらって、2死2塁で4番と勝負だ》 準太が牽制するも、サインが出てないのにやってしまったようでギリギリでした。 準太が詫びを入れる様子を見て巣山は桐青も緊張していると心を決め、バントを成功させる。 巣山君のお母さんはあまりの緊張に息をするのを忘れてしまいます。 「褒めたげないの?」 「声かけると怒るもん」 「須山君、野球が上手って文貴が言ってたよ」 「そうそう、あと田島君」 「そうそう、田島君の話聞くよ」 「バッティング、スゴイって」 「足も速いんでしょ?」 「肩もいいってね」 「それに体力測定、校内ランキング1位だってクラス会の時、先生言ってた」 「スゴクなんかない。運動神経は多少いいかもしれないけど、末っ子名紋だから皆が甘やかしちゃってもう…」 「田島さんとこ、兄弟多いんだよね?」 「何人生んだの?」 「えへ、5人」 そして、4番サード・田島君の番です。 《お膳立ては整った。この試合、回が浅いうちにはまる場面があったら試したかったこと》 《打ったら走るだけ?》 《それって作戦なしってことじゃんか》 《モモカン、チャンス1回分、田島に任せたんだ》 《小さい4番だ。この身体じゃそうは飛ばせない。飾りの4番でないとするなら、4番に座る理由は打率だろう。この身体で打率を稼いでいるなら目がいいのかな?》 1球目はフォークでストライク。 《フォークかな?高瀬君のフォークは小さい変化だからカウントも稼げるのよね》 《春の試合のデータでは河合のリードで1番パターン化されていたのは決め球だった。右打者にはフォーク、左打者にはシンカー…》 花井の予想通り、2球目はシンカーで田島は空振る。 《シンカー!?》 《田島が空振り!?2球目からシンカー来たか》 黄色い声援や、クラスメイトの男子からの応援で期待が集まる中、田島は集中していた。 そして、3球目もシンカーで田島のバットは空を切り、空振り三振でチェンジになってしまう。 《田島君でも歯が立たないか」 《空振り2つ…》 《ビデオで何度も見たけど、実物は『逃げながら落ちてく』感じだ。2球目は腕を精一杯伸ばしたのに届かなかった。あんなシンカー、初めてだ》 《残念だったな。ま、1点差ってのもかえってプレッシャーかかるか。切り替えよう、うちのエースのお披露目だぜ》 「三橋、行くぞ」 「うん」 「田島」 「あ、サンキュ」 「シンカーか?」 「うん。左連中にはちょっと厳しいな。右打者用のフォークの方が捕まえられそうだよ。頼むぜ、5番!!」 「おぉ!!」 1回裏になり、桐青側の応援が始まる。 西浦と違って人数も多く、ブラスバンドによる演奏です。 《始まった…。ベンチに入れなかった部員と踊りつきスタンド応援。これがあると強いチームな気がするよな。レギュラーはあの人数の上にいるってことだからな》 「何?」 「あぁ、先頭切ろうな」 「うん」 《ビビってねえみたいだからいいか。味方の援団にはビビんのにホントよく分かんねえ奴だぜ》 《ホントの1番で、初めてのマウンド、だ…。ホントの…1番…!!俺は一生懸命投げるぞ!!》 桐青の1番真柴への一球目を投げる。 次回、「先取点」 ジャンル別一覧
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